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原状回復・関係法令

通常損耗と善管注意義務違反の違い

原状回復をめぐるトラブルは賃貸借関係で最も多い争点であり、賃管士試験でも最頻出です。民法621条但書は「通常の使用及び収益によって生じた損耗・経年変化」を賃借人の原状回復義務から除外しており、善管注意義務違反(民法400条・622条の2)による損耗とは負担者が真逆になります。国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(2011年再改訂・2018年改訂)と最判平17.12.16が実務の基軸です。

比較表で見る違い

観点通常損耗・経年劣化善管注意義務違反による損耗
内容自然な使用・経年による減価(日焼け・自然摩耗等)不適切な使用・故意過失・善管注意義務違反による損耗
負担者賃貸人(オーナー)負担賃借人(入居者)負担
根拠条文民法621条但書(通常損耗・経年変化を除外)民法400条(善管注意義務)・621条本文・622条の2(敷金)
原状回復ガイドライン上の区分A(賃貸人負担)・A(+B)(経年変化)B(賃借人の故意過失・善管注意義務違反)
具体例クロスの日焼け、畳の自然摩耗、家具設置による床のへこみ、冷蔵庫裏の電気焼け喫煙によるヤニ汚れ・臭い、ペットの傷・尿、引っ越し作業による傷、結露放置によるカビ
耐用年数の考慮不要(賃貸人負担のため)必要(クロス6年・カーペット6年・フローリング15年等で減価)
特約による負担転嫁可能だが厳格な要件(最判平17.12.16)不要(もともと賃借人負担)

それぞれの詳しい解説

A通常損耗・経年劣化

通常の使用方法で物件を使った結果生じる減価で、賃料に織り込まれているとされ賃貸人負担となります(民法621条但書)。2020年4月施行の改正民法でこのルールが明文化されました。日焼けによるクロスの変色、家具の重みによる床のへこみ、冷蔵庫裏の電気焼けなどが典型例で、賃借人に原状回復させることはできません。

  • 民法621条但書:通常損耗・経年変化は原状回復義務から除外

  • 原状回復ガイドラインのA区分(賃貸人負担)

  • 具体例:日焼けクロス、畳の自然摩耗、画鋲程度の小さな穴、設置跡

  • 賃料に減価分が含まれているという考え方(賃料二重取り防止)

B善管注意義務違反による損耗

賃借人は善良な管理者の注意(民法400条)をもって物件を使用する義務を負い、これに違反して生じた損耗は賃借人負担となります。敷金から控除でき(民法622条の2)、不足分は別途請求可能。ただし耐用年数経過分は減価して負担割合を算定します(クロス6年、カーペット6年、フローリング15年等)。

  • 民法400条:善管注意義務/622条の2:敷金からの控除

  • 原状回復ガイドラインのB区分(賃借人負担)

  • 具体例:喫煙ヤニ、ペット傷、結露カビ放置、引っ越し傷、落書き

  • 耐用年数で減価(経過年数が長いほど賃借人負担割合は下がる)

  • 故意過失・通常の使用方法を逸脱した使用が要件

試験対策のポイント

通常損耗=賃貸人負担(民法621条但書)、善管注意義務違反=賃借人負担。特約で通常損耗を賃借人負担にするには「明確性・合理性・賃借人の認識」が必要(最判平17.12.16)。

理解度チェック(3問)

Q1. 原状回復に関する次の記述のうち、民法および国土交通省の原状回復ガイドラインに照らして最も適切なものはどれか。

  1. 1賃借人は通常の使用によって生じた損耗についても、原状回復義務を負う。
  2. 2日焼けによるクロスの変色は、賃借人の善管注意義務違反として賃借人負担となる。
  3. 3家具の設置による床のへこみは、通常損耗として賃貸人負担となる。
  4. 4通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる特約は、いかなる場合も無効である。
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正解:3. 家具の設置による床のへこみは、通常損耗として賃貸人負担となる。

家具設置による床のへこみは通常の使用に伴うもので、原状回復ガイドラインのA区分(賃貸人負担)に該当する。民法621条但書は通常損耗・経年変化を原状回復義務から除外しており、肢1は誤り。日焼けクロスも通常損耗のため肢2は誤り。最判平17.12.16は通常損耗補修特約を一律無効とはしておらず、明確性・合理性・賃借人の認識を要件として有効性を認めうるため肢4も誤り。

Q2. 原状回復における耐用年数の考え方として、原状回復ガイドラインに照らして最も適切なものはどれか。

  1. 1クロス(壁紙)の耐用年数は10年とされている。
  2. 2入居後6年経過したクロスを賃借人の故意過失で汚損した場合、賃借人負担割合は1円まで減価する。
  3. 3フローリングは部分補修の場合、耐用年数を考慮せず全額賃借人負担となる。
  4. 4カーペットの耐用年数は15年とされている。
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正解:2. 入居後6年経過したクロスを賃借人の故意過失で汚損した場合、賃借人負担割合は1円まで減価する。

原状回復ガイドラインではクロス・カーペットの耐用年数は6年とされ、6年経過すれば残存価値1円となり賃借人負担はほぼ消滅する。肢1(クロス10年)は誤り(正しくは6年)。フローリングは部分補修なら経過年数を考慮しない(全体張替えの場合は耐用年数15年で減価)が、「全額賃借人負担」という点で表現が不正確で、減価されないのは部分補修費用の範囲のみ。肢4(カーペット15年)は誤り(正しくは6年)。

Q3. 通常損耗を賃借人負担とする特約の有効性に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例(最判平成17年12月16日)に照らして最も適切なものはどれか。

  1. 1通常損耗補修特約は、消費者契約法10条により常に無効である。
  2. 2通常損耗補修特約が有効となるには、賃借人が補修対象範囲を明確に認識し合意していることが必要である。
  3. 3契約書に「原状回復は賃借人負担とする」と一文記載されていれば、通常損耗も含めて有効となる。
  4. 4通常損耗補修特約は、口頭での合意があれば書面がなくても有効となる。
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正解:2. 通常損耗補修特約が有効となるには、賃借人が補修対象範囲を明確に認識し合意していることが必要である。

最判平17.12.16は、通常損耗補修特約が有効となるためには、補修対象となる損耗の範囲が賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか、口頭等で説明され賃借人が明確に認識して合意したと認められることが必要とした。抽象的な記載では足りず、肢3は誤り。判例は一律無効とはしていないため肢1も誤り。明確性・賃借人の認識という要件があるため、口頭のみで具体的説明がない場合は無効リスクが高く肢4も不正確。

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