テスト前夜、教科書を何度も読み返して、蛍光ペンもたっぷり引いた。なのに本番では肝心なところが出てこない——そんな経験はないでしょうか。じつは「読む」中心の勉強には、見落とされがちな弱点があります。
検索練習(retrieval practice)は、その弱点を補う方法です。やること自体はシンプルで、教材を閉じて「思い出す」だけ。問題を解く、何も見ずに白紙へ書き出す、誰かに説明してみる——どれも立派な検索練習です。テストを「実力を測る道具」ではなく「覚えるための道具」として使う、と言い換えてもいいかもしれません。
そんなの当たり前では? と感じるかもしれません。それでも多くの人は、まず完璧に読み込んでから問題に取りかかろうとします。ところが記憶研究が積み重ねてきた結果は、その順番こそが遠回りだと教えてくれます。この「思い出すと覚える」現象は、研究の世界では「テスト効果(testing effect)」と呼ばれてきました。
なぜ「思い出す」と忘れにくくなるのか
記憶は、しまい込んで終わり、ではありません。引き出すたびに少しずつ作り直され、そのたびに通り道が太くなっていきます。一度でも自力で思い出せたことは、次はもっと楽に出てくる——筋トレに近いイメージです。
反対に、読み返しは少しだけ注意が要ります。見覚えのある文字が並ぶと「知ってる、知ってる」と感じますが、それは「見れば分かる」だけかもしれません。試験で問われるのは「何も見ずに出せるか」。読み返しの心地よい手応えは、本番で出せる力とずれていることが多いのです。
つい、やってしまいがちなこと
「テストは覚えた後の確認でしょ」——そう思われがちですが、テストは覚える前や途中にこそ効きます。
「間違えたら逆効果なのでは」と心配する人もいます。でも大丈夫。思い出そうとあがいて、そのあと正解を確認する。この流れが、むしろ記憶を強くしてくれます(あとで解説を読んで答え合わせをするのが前提です)。
「まず完璧にインプットしてから」も、ありがちな回り道です。8割わかってから解くより、6割の理解で解き始めて、つまずきながら覚えていくほうが、結局は速かったりします。
研究が示していること
Roediger & Karpicke (2006)
どんな実験? 大学生に科学の文章(数百語)を読ませ、グループを分けました。一方は同じ文章をもう一度読み(再読)、もう一方は文章を伏せて思い出せるだけ書き出すテストを受けます(このとき正解は教えません)。その後、5分後・2日後・1週間後に最終テストを行い、どれだけ覚えているかを比べました。
どうなった? 5分後の直後テストでは、再読した群のほうがわずかに上でした。ところが日が経つほど形勢は逆転し、1週間後には思い出す練習をした群が大きく上回ります。別の条件では、繰り返しテストした群は1週間後でも約6割を再生できたのに対し、繰り返し読んだだけの群は約4割。しかも学生本人は「読み返したほうが覚えられる」と予想していて、手応えと実際の定着が食い違っていました。
つまり、「読んでわかった気」はあてになりにくい。長い目で見れば、思い出す練習のほうが記憶を強くします。
Karpicke & Roediger (2008, Science)
どんな実験? 今度は外国語の暗記です。学生にスワヒリ語と英語の単語ペア40組を覚えさせ、一度正解できた単語をその後どう扱うかで条件を変えました。「正解後もテストし続ける」のか、それとも「正解したらもう出題せず、読んで復習だけを続ける」のか——。そして1週間後に、全単語の最終テストをしました。
どうなった? テストし続けた条件では1週間後も8割近くを思い出せたのに、いったん正解した後にテストをやめた条件では3割ほどまで落ち込みました。一方、正解後に「読んで復習」を足しても成績はほとんど変わりません。効いていたのは復習の量ではなく、「思い出す機会があったかどうか」だったのです。
一度解けても安心は禁物。思い出す回数を確保することが、定着の決め手になります。
Bjork ら「望ましい困難(desirable difficulties)」
スラスラ読めると「できた」と感じますが、それが学習の進んだ証拠とは限りません。少し思い出しにくい、ちょっと負荷がかかる——その引っかかりこそが記憶を鍛える、という考え方です。検索練習がきついのは、むしろ効いているサインだと捉えてください。
スキマ資格での実践
スキマ資格の記憶定着問題・予想問題・過去問は、ぜんぶ「思い出す」ためのトレーニングです。テキストを完璧にしてから挑むのではなく、早めに「解く → 解説で確認」を回してみてください。最初は解けなくて当たり前。それでいいんです。
間違えた問題こそ、伸びしろです。解説を読んで「そういうことか」と腑に落ちた瞬間、その間違いは記憶のフックに変わります。
よくある質問
Q. テスト効果と検索練習って同じものですか?
ほぼ同じものを指します。「思い出す(検索する)練習で記憶が強くなる」現象を、テストの文脈で言うと「テスト効果」になる、という関係です。
Q. どうしても思い出せないときは?
まず数秒、ねばってみてください。出てこなくても大丈夫です。そのあとすぐ解説で正解を確認すれば、「思い出せなかった悔しさ+直後の答え合わせ」が、かえって記憶を強めてくれます。
Q. 何回くらい解けば安心できますか?
じつは、回数より「間隔」のほうが大事です。一気に固めようとせず、日をあけて何度か思い出すほうが長く残ります(分散学習・間隔反復もあわせてどうぞ)。
参考文献
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.
※ 紹介した研究は学習科学における代表的な知見です。効果には個人差があり、合格を保証するものではありません。スキマ資格はこれらを学習設計の指針として参照しています。
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