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企業取引の法務

危険負担と契約不適合責任の違い

売買契約で目的物に問題が生じた場合、それが「契約後の滅失・損傷」なのか「もともと契約内容に適合しない欠陥」なのかで適用される制度が異なる。危険負担は当事者双方に帰責事由のない滅失等の場面を扱い、契約不適合責任は引き渡された物が契約内容に適合しない場面を扱う。事例問題では引渡し時期と危険移転がカギとなる。

比較表で見る違い

観点危険負担契約不適合責任
適用場面双方に帰責事由なく目的物が滅失・損傷した場合引き渡された物が種類・品質・数量で契約に適合しない場合
問題となる点反対債務(代金支払債務)の履行を拒めるか買主が追完・減額・賠償・解除を請求できるか
改正民法の効果債権者は反対給付の履行を拒絶できる(民法536条1項)追完請求・代金減額・損害賠償・契約解除(562〜564条)
危険の移転引渡しによって危険が買主に移転する(民法567条)危険移転後の滅失・損傷は原則として買主負担となる

それぞれの詳しい解説

A危険負担

危険負担とは、双務契約において一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由で履行不能となった場合に、他方の反対債務をどう扱うかの問題である。改正民法536条1項は、債権者は反対給付の履行を拒むことができると定める(履行拒絶権構成)。たとえば建物売買で引渡し前に地震で建物が滅失した場合、買主は代金支払いを拒める。ただし民法567条により、目的物の引渡し後に双方無責で滅失・損傷したときは、買主は代金支払いを拒めず、追完・減額・解除もできない(危険が移転している)。

  • 双方に帰責事由がない履行不能が前提

  • 改正民法では債権者は反対給付の履行を拒絶できる(536条1項)

  • 引渡しで危険が買主に移転する(567条)のが分岐点

B契約不適合責任

契約不適合責任は、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合の売主の責任である。買主は追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除ができる。これは目的物が「もともと契約の内容を満たしていない」ことに対する責任であり、契約後に双方無責で滅失・損傷した危険負担の場面とは適用の基礎が異なる。ただし、引渡し後に買主の帰責によらず生じた損傷であっても、それが契約不適合と評価される場合の処理は危険移転(567条)との関係で整理される。

  • 目的物が契約内容に適合しないことが責任の基礎

  • 追完・代金減額という独自の救済を持つ

  • 危険移転(引渡し)後の滅失・損傷は原則買主負担となり責任追及できない

試験対策のポイント

危険負担は「契約後に双方無責で滅失」→代金支払いを拒めるか、契約不適合は「物がもともと欠陥」→追完等を請求できるか。引渡しによる危険移転(567条)が両者の分水嶺。

理解度チェック(3問)

Q1. 危険負担に関する改正民法下の記述のうち、最も適切なものはどれか。

  1. 1双方に帰責事由なく目的物が引渡し前に滅失した場合、債権者は反対給付の履行を拒むことができる
  2. 2危険負担の問題が生じると、契約は当然に最初から無効となる
  3. 3目的物の引渡し後に双方無責で滅失しても、買主は常に代金支払いを拒める
  4. 4危険負担では、債務者の帰責事由がある履行不能のみが対象となる
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正解:1. 双方に帰責事由なく目的物が引渡し前に滅失した場合、債権者は反対給付の履行を拒むことができる

改正民法536条1項により、双方の責めに帰することができない事由で債務の履行が不能となったときは、債権者は反対給付(代金支払い)の履行を拒むことができる。危険負担は契約を当然無効にする制度ではないため肢2は誤り。民法567条により引渡し後に双方無責で滅失した場合は危険が買主に移転しており代金支払いを拒めないため肢3も誤り。危険負担は双方無責の履行不能を対象とするため肢4も誤り。よって肢1が正しい。

Q2. 売買目的物の引渡しと危険の移転に関する記述のうち、最も適切なものはどれか。

  1. 1危険は契約成立と同時に常に買主へ移転する
  2. 2目的物の引渡し後に双方無責で生じた滅失・損傷は、原則として買主の負担となる
  3. 3引渡し後の滅失であっても、買主は常に契約不適合として追完を請求できる
  4. 4危険の移転時期は当事者が合意で変更することは一切できない
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正解:2. 目的物の引渡し後に双方無責で生じた滅失・損傷は、原則として買主の負担となる

民法567条1項により、売主が目的物を引き渡した後に当事者双方の責めに帰することができない事由で滅失・損傷したときは、買主はそれを理由に追完請求・代金減額・損害賠償・解除をすることができず、代金支払いも拒めない。すなわち危険は原則として引渡しで移転する。契約成立時に常に移転するわけではないため肢1は誤り。引渡し後の双方無責の滅失で追完できるとする肢3も誤り。危険移転時期は任意規定で合意により変更しうるため肢4も誤りで、肢2が正しい。

Q3. 危険負担と契約不適合責任の適用関係に関する記述のうち、最も適切なものはどれか。

  1. 1契約締結前から存在した品質の欠陥は、危険負担の問題として処理される
  2. 2契約後に双方無責で目的物が滅失した場合は、契約不適合責任の追完請求で処理される
  3. 3もともと契約内容に適合しない欠陥は契約不適合責任、契約後の双方無責の滅失は危険負担で処理される
  4. 4両制度は適用場面が完全に重複し、買主はいずれを選択してもよい
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正解:3. もともと契約内容に適合しない欠陥は契約不適合責任、契約後の双方無責の滅失は危険負担で処理される

契約不適合責任は「引き渡された物がもともと契約内容に適合しない」場面を扱い、危険負担は「契約後に双方無責で目的物が滅失・損傷した」場面を扱う。両者は適用の基礎が異なる。契約前から存在した欠陥は契約不適合の問題であり危険負担ではないため肢1は誤り。契約後の双方無責の滅失は危険負担の問題で、追完請求の対象ではないため肢2も誤り。適用場面は完全には重複しないため肢4も誤り。よって肢3が正しい。

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