令和8年度 社労士試験 講評——未明の地震に始まり、「条文の外」を問われた一日
令和8年8月23日実施の第58回社労士試験を速報講評。未明の震度5弱で東京・埼玉・千葉は開始繰り下げ。選択式は労基・労災・労一で判例、健保で民法、社一で憲法と「条文の外」を問う出題が相次ぎ、択一式は67ページの物量勝負でした。科目別の傾向とSNSの反応をまとめます。
令和8年8月23日(日)、第58回(令和8年度)社会保険労務士試験が全国で実施されました。午前の選択式80分、午後の択一式210分、試験時間だけで計290分という長丁場です。今年は7月末に発生した令和8年熊本地震、そして試験当日未明に関東を襲った最大震度5弱の地震と、試験の中身の外側でも異例ずくめの一日になりました。困難な条件のなか最後まで走り切った受験生の皆さん、本当にお疲れさまでした。
この記事では、試験直後に公開された受験指導校の解答速報と当日講評、そしてSNS上の受験生の自己採点報告や感想をもとに、選択式・択一式の出題傾向と難易度、全体の講評を速報としてまとめます。先に全体像を要約すると、選択式は年金2科目を中心に取り組みやすい問題が多く、全体としては昨年より穏やかだったという見方が優勢です。ただし労基・労災・労一で判例、健康保険法で民法、社会保険の一般常識で日本国憲法と、いわば「社労士の条文集の外」から問う出題が相次ぎ、受験生の話題をさらいました。午後の択一式は問題冊子67ページという物量で、時間との戦いになったという声が目立ちます。
なお本記事は試験当日夜時点の速報情報に基づく講評です。合格基準点(総得点・科目別)と救済(科目別基準点の引き下げ)の有無は各校の予想による暫定値であり、確定するのは令和8年10月1日(木)の合格発表時です。
総評——選択式は「労一以外あっさり」、ただし条文の外からの出題が波紋
午前の選択式について、受験指導校の当日総評は「判例問題が3問出題され、労働基準法や労災保険法、健康保険法(民法関連を含む)が難易度高め。年金科目は比較的安定しており、全体としては昨年より易化傾向も見られたが、一部科目では救済の可能性もある」という趣旨でまとめています。受験生の自己採点報告でも「労一以外はあっさりめだった」という総括が目立ち、厚生年金・国民年金で4点・5点を確保した報告が多数を占めました。
ただし、この「あっさり」の内訳が今年の曲者です。労基は判例の長文読解に時間を取られ、健保では債権譲渡という民法の理解を前提にした空欄が登場、社一では白書・統計の体裁を取りながら日本国憲法の条文知識が絡む出題がありました。条文と数字の暗記を積み上げてきた受験生ほど「どの科目の試験を受けているのか分からなくなった」と戸惑いを口にしており、得点分布は科目ごとに大きく割れた模様です。
午後の択一式は、難問・奇問よりも分量で受験生を消耗させる構成でした。問題冊子は67ページに達し、「問題文が長く読み切れなかった」「時間が足りず選択肢を悩む余裕がなかった」という声が相次いでいます。一方で56点前後の高得点報告も出ており、基礎知識を長文の中から素早く拾い出せた層とそうでない層の差が開いた試験と言えます。社労士試験は選択式・択一式それぞれの総得点に加えて科目ごとの基準点(いわゆる足切り)があるため、総得点は届いていても1科目に泣くという報告が今年も多く見られました。
今年の特殊事情——熊本地震と当日未明の震度5弱、災害に揺れた試験日
令和8年度の社労士試験を語るうえで、災害の影響は外せません。まず7月28日に発生した令和8年熊本地震です。8月上旬の税理士試験では熊本会場が延期される対応が取られましたが、社労士試験の熊本会場(熊本学園大学)は予定どおり実施されました。試験センターは、要件を満たす受験予定者に受験手数料を返還する対応を案内しましたが、再試験や追試験は設けられませんでした。
- 九州新幹線は新水俣以北の不通が続き、九州自動車道の全線復旧は8月14日。高速バスの減便・運休も残るなか、交通手段を確保できず受験断念を表明する受験生もいました。
- SNSでは「手数料返還だけでは救済にならない」「災害時に追試験できる仕組みを作るべきではないか」という制度論が試験前から噴出しました。
- 熊本会場では試験開始前に、地震発生時の避難経路について通常より入念な説明があったと受験生が報告しています。
さらに試験当日の8月23日午前2時ごろ、茨城県南部を震源とするマグニチュード5.9の地震が発生し、東京・埼玉・千葉・茨城で最大震度5弱を観測しました。未明の緊急地震速報で目が覚め、寝不足のまま会場に向かった受験生が続出。鉄道の遅延を受けて、試験センターは東京都・埼玉県・千葉県の会場で試験開始時刻を繰り下げる対応を取りました(受験生の報告では50分程度の繰り下げ)。この影響は夜まで続き、受験指導校の択一式解答速報の公開時刻が遅れる事態にもなりました。
「熊本の対応も、今日の対応も後手ではないか」という不満の声がある一方、「災害続きのなか受験できたこと自体がすごいこと」というねぎらいの投稿も多く、1年に1回しかない試験の重みが改めて可視化された一日でした。
選択式の講評——判例3問、民法、憲法。「何の試験か」と話題に
科目別に見ていきます。労働基準法(労働安全衛生法との複合科目)は判例からの出題が中心で、長い判決文の読解に「30分以上使った」という報告があるほど時間を要する構成でした。安衛の空欄は例年より素直で、労基の判例をどこまで丁寧に読めたかが分かれ目です。労災保険法も判例が絡み、障害等級(9級と13級)を答えさせる出題がありました。
雇用保険法は内容自体は標準的でしたが、基本事項の空欄でかえって凡ミスを誘発したようで、「基本中の基本のAを落とした」「凡ミスで2点」という悔しさをにじませる報告が目立ちました。内容が標準的なだけに「救済は期待しにくい」という見方が受験生の間では優勢です。
今年最大の話題は一般常識2科目と健康保険法です。労務管理その他の労働に関する一般常識(労一)は今年も最難関との声が多く、判例の出典について「令和5年司法試験の労働法で扱われた題材と同じ」という指摘が受験生から出ています。この指摘によれば、令和6年の労基(令和5年司法試験)、令和7年の労一(令和6年予備試験)に続き、3年連続で司法試験・予備試験の題材と重なる判例が選択式に登場したことになります。社会保険に関する一般常識(社一)は白書・統計の体裁を取りつつ日本国憲法の条文が絡む異色の出題で、「憲法は的外れで仕方ない」と割り切る声と「易しかった」という声に評価が割れました。健康保険法は債権譲渡など民法の素養を前提にした空欄が含まれ、「健保で民法じゃん」という驚きの投稿が拡散。行政書士試験などで民法を学んだ併願組からは「民法の勉強が報われた」という声が上がる一方、社労士の学習範囲だけで挑んだ受験生には厳しい出題でした。
厚生年金保険法・国民年金法の年金2科目は今年も安定しており、「易しい」という評価がほぼ一致。5点満点の報告も珍しくありませんでした。合否を分けたのは年金ではなく、労一・社一・健保・雇用のどこで基準点(原則3点)を守り切れたかです。救済(基準点の2点への引き下げ)の予想は当日夜時点で校によって分かれており、伊藤塾は健保と労一、フォーサイトは健保・労災・労一を候補に挙げる一方、SNSでは「今年は救済なしもあり得る」という見方も流れています。参考までに昨年(第57回)は選択式で労災・労一・社一の3科目が2点に引き下げられました。
択一式の講評——67ページの物量、時間との戦い
午後の択一式は7科目70問・210分。今年の問題冊子は67ページに達し、「この分量は通常なのか」という戸惑いの声が上がりました。個数問題や組合せ問題の比率もさることながら、1つひとつの選択肢が長文化しており、「問題文が長くて読み切れない」「知っている論点なのに読むだけで時間が溶ける」という報告が相次ぎました。試験前から「生成AI対策で選択肢は長文化する」と予想する声が受験指導関係者にあり、それが現実になった格好です。
一方で、択一式で56点(70点満点)という高得点の自己採点報告もあり、長文のなかから判断に必要な論点を素早く抽出できた受験生はしっかり得点を積み上げています。「初見の選択肢が多いなかで、どうやって正解肢を選ぶのか」という嘆きと、「模試と答練で鍛えられて、こんなに疲れなかった年は初めて」という声が同居しており、過去問の周回だけでなく本試験と同じ分量を時間内に処理する訓練を積んだかどうかが差になったようです。
なお択一式の詳細な科目別講評は、東京都会場などの開始繰り下げの影響で各校の解答速報の公開自体が遅れたこともあり、当日夜時点では出揃っていません。基準点予想を含めた各校の分析は、翌日以降の解答解説会・予想会で示される見込みです。
SNSでの評判——ねぎらいと戸惑いが交錯
Yahoo!リアルタイム検索における「社労士試験」関連の投稿は、試験当日夜の時点でポジティブが53パーセント、ネガティブが47パーセントでした。3日間で駆け抜ける税理士試験(今年はポジティブ81パーセント)と比べると明らかにネガティブ寄りで、とくに「択一」を含む投稿に限ればポジティブ33パーセント、ネガティブ67パーセントと、午後の物量への疲労感がそのまま数字に表れています。特徴的だった論調を整理します。
- 選択式の「条文の外」出題への戸惑いが最多。「健保で民法」「社一で憲法」への驚きとともに、「この理屈ならなんでもありになってしまうのではないか」と出題範囲のあり方を問う投稿が拡散しました。
- 判例学習の必要性を痛感する声。「今日から枕元に労働判例百選を置いて寝ます」という投稿に象徴されるように、判例の言い回しに慣れているかどうかが選択式の明暗を分けたという受け止めが広がっています。
- 基準点(足切り)に泣く声。「雇用の1点に泣くことになった」「総得点は33点あるのに」という報告が今年も多数。総得点型の試験にはない社労士特有の苦しさです。
- 災害下の受験へのねぎらい。未明の地震で寝不足のまま受験した関東の受験生、交通事情の厳しいなか熊本会場にたどり着いた受験生への連帯の投稿が終日続きました。
- 民法・憲法を学んだ併願組の手応え。「行政書士試験を経てから社労士を受けて本当によかった」という投稿が象徴的で、隣接資格の学習経験が今年は明確に有利に働きました。
出題傾向のまとめ——今年の3つの流れ
今年の試験を通して見えた傾向は、大きく3点に整理できます。
第一に、選択式の判例シフトが完全に定着したことです。今年は労基・労災・労一の3科目で判例が出題され、なかでも労一の判例は司法試験の題材と重なるという指摘が出ています。受験生の分析によれば司法試験・予備試験で扱われた判例が選択式に登場するのは3年連続で、来年以降も「条文と数字」だけでなく、判決文の独特の言い回しを読み慣れておく学習が欠かせなくなりました。
第二に、隣接法令への越境です。健康保険法で債権譲渡(民法)、社一で日本国憲法と、社労士の受験範囲の「外側」にある基礎法学の素養を問う空欄が複数登場しました。断片的な語句暗記ではなく、制度の背後にある法律の仕組みごと理解しているかを試す方向への変化であり、行政書士など他資格で法律の基礎を学んだ受験生が相対的に有利になっています。
第三に、択一式の長文化・情報処理化です。67ページという分量は、知識の深さと同じくらい「限られた時間で読み切り、判断する」処理能力を問うています。これは近年の税理士試験など他の国家資格にも共通する流れで、生成AIで問題文の類型学習が容易になった時代に、その場での読解・処理で差をつけようという作問側の意図を読み取る受験関係者もいます。来年に向けては、過去問の正誤暗記にとどまらず、本試験と同じ分量を時間を計って解き切る訓練の比重を上げる必要があります。
今後のスケジュールと、いま動くべきこと
当日夜に出はじめた各校・講師の合格ライン予想は、選択式の総得点が24点から27点(伊藤塾が24〜26点、アガルート講師予想とフォーサイトが25〜27点)、択一式の総得点が44点から46点(伊藤塾)というレンジに集まっています。昨年の確定基準(選択式22点・択一式42点)より高めの予想であり、「全体としてはやや取り組みやすかった」という総評と整合的です。ただしこれらはあくまで速報予想で、救済の予想も校によって分かれています。伊藤塾は択一式でも雇用保険法の3点救済を予想しており、選択式の労一・社一・健保あたりで2点だった方も、確定までは分かりません。昨年(第57回)も選択式3科目・択一式1科目で基準点引き下げが行われています。今後の主なスケジュールは次のとおりです。
- 各受験指導校による詳細な解答解説・基準点予想——試験翌日以降、解答解説会や合格ライン予想会が順次開催されます。
- 合格発表——令和8年10月1日(木)。厚生労働省ホームページと社会保険労務士試験オフィシャルサイトに合格者受験番号が掲出されます。
- 合格基準点と救済の有無は合格発表と同時に公表されます。
ボーダーライン上にいる方に伝えたいのは、救済の有無は発表当日まで誰にも分からないということです。過去には「救済はない」という下馬評を覆して基準点が引き下げられた年が何度もあります。結果を待つ約1か月半を空白にせず、もし来年も挑むことになった場合に備えて、忘却がいちばん進みやすいこの時期に週数回でも知識に触れ続けておくと、どちらの結果になっても後悔がありません。
来年に向けて再スタートを切る方は、今年の傾向を踏まえた3つの補強——判例の言い回しに慣れる、民法・憲法の基礎に触れる、本試験と同じ分量を時間内に処理する訓練——を学習計画に組み込むことをおすすめします。とくに判例と基礎法学は直前期の詰め込みが利かない分野なので、早い時期からの積み上げが物を言います。
スキマ資格で、社労士試験の学習を無料で続ける
社労士試験は「1科目の穴が全体を沈める」試験です。合否を分けた基準点割れの多くは、苦手科目を後回しにしたまま試験日を迎えたことに起因します。だからこそ、8科目すべてに毎日少しずつ触れ続ける学習スタイルが、この試験ではとりわけ有効です。
スキマ資格では、社労士試験の対策コンテンツを登録なしでも1問から無料で使えます。本試験と同じ形式の選択式問題320問は、空欄A〜Eを20の語群から選び、空欄ごとに部分点で採点する本番仕様。一問一答1000問は労基安衛・労災・雇用・徴収・労社一・健保・厚年・国年の全範囲をカバーし、まとめノートは全62章・1,182の穴埋めで主要論点を体系的に確認できます。通勤や昼休みのスキマ時間に1問ずつ解けば、8科目をまんべんなく回す習慣が自然に作れます。
間違えた問題は自動で記録されるので、自分の「危ない科目」の把握にも役立ちます。試験を終えたばかりの方は、まず数日ゆっくり休んでください。そして結果を待つ間の知識の維持にも、来年に向けた再スタートにも、気が向いたときに1問目から気軽にどうぞ。利用はすべて無料です。
社労士試験の学習を無料で始める
よくある質問
Q.令和8年度(第58回)社労士試験の難易度はどうでしたか?
A.速報ベースでは、選択式は年金2科目を中心に取り組みやすく、全体としては昨年より穏やかだったという見方が優勢です。ただし労基・労災・労一で判例、健康保険法で民法(債権譲渡)、社一で日本国憲法と、条文暗記の外側を問う出題が相次ぎ、科目ごとの手応えは大きく割れました。択一式は問題冊子67ページの物量で時間との戦いになっています。当日夜時点の各校の合格ライン予想は選択式24〜27点・択一式44〜46点と、昨年の確定基準(選択式22点・択一式42点)より高めです。確定的な難易度評価は10月1日の合格発表(合格基準点の公表)を待つ必要があります。
Q.選択式の救済(基準点引き下げ)はありそうですか?
A.試験当日夜時点では校によって予想が分かれています。伊藤塾は選択式の健保・労一の2点救済(択一式は雇用保険法の3点救済)を、フォーサイトは選択式の健保・労災・労一を候補に挙げる一方、SNSでは「今年は救済なし」という見方もあります。参考までに昨年(第57回)は選択式で労災・労一・社一の3科目が2点に引き下げられ、択一式でも雇用保険法が3点に引き下げられました。救済の有無は合格発表(10月1日)で合格基準点とともに公表されるまで確定しません。
Q.合格発表はいつですか?
A.令和8年10月1日(木)です。合格者の受験番号が厚生労働省ホームページと社会保険労務士試験オフィシャルサイトに掲出され、合格基準点(総得点・科目別、救済の有無)も同時に公表されます。
Q.試験当日の地震で試験はどうなりましたか?
A.8月23日午前2時ごろに茨城県南部を震源とする地震(マグニチュード5.9)が発生し、東京・埼玉・千葉・茨城で最大震度5弱を観測しました。鉄道遅延の影響で、東京都・埼玉県・千葉県の会場では試験開始時刻が繰り下げられました。また7月末の令和8年熊本地震の影響が残る熊本会場は、受験手数料の返還対応を案内したうえで予定どおり実施されました。
参考文献
- 社会保険労務士試験オフィシャルサイト「第58回(令和8年度)社会保険労務士試験」(試験開始時刻の繰り下げ対応、令和8年熊本地震に伴う熊本県における試験の取り扱い、合格発表日などの実施情報)。
- アガルートアカデミー「社労士試験(社会保険労務士)解答速報 2026」(選択式・択一式の解答速報、試験当日の総評ライブ配信)。
- 伊藤塾・フォーサイト・アガルート講師ほか各受験指導校による合格基準点・救済予想(試験当日夜時点の速報値。正解・基準点は公式発表で確定)。
- X(旧Twitter)上の受験生による自己採点報告・感想、Yahoo!リアルタイム検索の感情分析(令和8年8月23日夜時点の反応を参照)。
- 気象庁発表・報道各社による地震情報(令和8年8月23日未明の茨城県南部を震源とする地震。最大震度5弱)。