ノートまとめは意味ない?「写す」より「思い出して埋める」が効く
きれいにまとめたノートほど「作って満足」になりがち。写すより自分で答えを生成するほうが残る——生成効果から、ノートの正しい使い方を解説。
色ペンを使い分け、レイアウトも整え、教科書の要点をていねいに書き写したノート。完成したときの達成感は格別ですし、見返すと「これだけまとめたんだ」と気持ちもよくなります。ところが——その時間のわりに、内容が頭に残っていないと感じたことはないでしょうか。試験前に見返すと、自分で書いたはずなのに初めて見るように感じる箇所すらある。これは、あなたの能力や努力が足りないからではありません。
誤解しないでほしいのですが、ノートまとめそのものが無意味なわけではありません。問題は、まとめ作業が「ただ写すだけ」になりがちなこと。記憶研究には「生成効果(generation effect)」という考え方があり、与えられた情報を読んだり写したりするより、自分で答えを作り出す(生成する)ほうが、はるかによく覚えられると分かっています。手を動かしている量は同じでも、頭の使い方が違うと、残り方がまるで変わってくるのです。
この記事では、生成効果とは何かという基本から、それを裏づける代表的な研究、なぜ「自分で作る」と記憶に残るのかという仕組み、ノート作りで多くの人がつまずく落とし穴、そして資格勉強への具体的な落とし込み方までを、順を追って解説します。読み終える頃には、「きれいにまとめること」が目的ではなかったと、すっきり腑に落ちるはずです。
「生成効果」とは——読むより、自分で作るほうが残る
まず言葉を整理しておきましょう。生成効果とは、すでに完成した情報をそのまま受け取るよりも、自分の頭で一部を作り出したほうが記憶に残りやすい、という現象のことです。たとえば「答えをそのまま読む」より「答えの一部を自分で埋める」、「説明を書き写す」より「キーワードだけ見て自分の言葉で説明する」——こうした、ほんの少しの「自分で作る」手間が、記憶の残り方を左右します。
ここで大事なのは、生成効果は「勉強量を増やす」話ではないということです。同じ情報に同じ時間だけ触れても、受け身で眺めるか、自分で作りにいくかで結果が変わる。つまり、努力の総量を増やさずに、頭の使い方を変えるだけで成果を伸ばせる、コストパフォーマンスのよい工夫なのです。
「そんな小さな違いで本当に変わるの?」と感じるかもしれません。きれいに写したノートのほうが、なんとなく勉強した実感もありますよね。ところが、この直感に反する結果が、古くから実験で確かめられています。その証拠を次に見ていきましょう。
研究が示していること
生成効果を語るうえで外せないのが、Slamecka & Graf(1978)の研究です。彼らは、単語をただ読んで覚えるグループと、ヒントから自分で単語を作り出すグループを比べました。たとえば「rapid ― f___」と示して、意味の近い言葉(fast)の最初の一文字だけをヒントに、残りを自分で埋めさせるのです。やっていることは「fast という単語に触れる」という点では同じはずなのに、結果には差が出ました。
自分で答えを作り出したグループのほうが、あとでその単語をよく覚えていたのです。ただ読んだだけのグループは、目では確かに見ているのに、記憶への残り方が一段弱かった。この「自分で生成すると残りやすい」という現象に、研究者たちは生成効果という名前をつけました。論文のタイトルが「生成効果——ある現象の輪郭を描く」となっているとおり、これは一度きりの偶然ではなく、条件を変えながら繰り返し確かめられた、安定した現象です。
この「自分でぶつかってから答えに出会うほうが残る」という考え方は、ほかの記憶研究とも地続きです。たとえば Richland ら(2009)は、まだ習っていない内容について先に質問を出し、自分で答えを探させてから解説を読ませると、ただ読むより記憶に残ることを示しました(プレテスト効果)。答えを知らない状態で自分から答えを取りにいく——その一手間が効くという点で、生成効果とよく似ています。穴埋めノートを「読む前に自分で埋める」というやり方は、この二つの効果をいっぺんに使う形になっているのです。
なぜ「自分で作る」と記憶に残るのか
では、なぜ自分で作り出すだけで記憶が強くなるのでしょうか。理由はひとつではありませんが、もっとも分かりやすいのが「頭にかかる負荷」の違いです。完成した文章をなぞるのは楽ですよね。スラスラ読めてしまう。ところが、その楽さこそが落とし穴なのです。何の引っかかりもなく目を通せてしまうとき、頭はほとんど働いていません。
一方、空欄を自分で埋めようとすると、「これは何だったか」と頭をひねる小さな努力が必要になります。記憶のなかを探し、関連する知識を引っぱり出し、当てはまりそうな答えを組み立てる。この一連の作業が、その知識への手がかりを増やし、記憶のフックをつくります。少し苦しくても自力で取りにいく——その一手間が効くわけです。研究の世界では、こうしたちょうどよい負荷を「望ましい困難(desirable difficulties)」と呼びます。
だから、穴埋めで「あれ、何だっけ」と詰まる感覚は、効いているサインだと捉えてください。スラスラ埋まらないことに不安を感じる必要はありません。むしろ、まったく引っかからずに写し終えたノートのほうが、記憶という点では危ういのです。手応えの良さと、本番で出せる力は、しばしばズレています。
ノートまとめが「作業」になってしまう落とし穴
ここで、多くの人がはまりやすい落とし穴を確認しておきましょう。いちばん多いのが、きれいにまとめること自体が目的になってしまうケースです。色分けのルールを決め、見出しをそろえ、図表を整える——たしかに見栄えのよいノートはできあがります。でも、その間、頭は「どう配置するか」「何色にするか」に向いていて、肝心の中身を覚える作業にはあまり向いていません。手は一生懸命動いているのに、記憶にはほとんど残らない。これが「写す=作業化」の正体です。
もうひとつの落とし穴が、完成したノートを「眺めて満足する」こと。きれいなノートは見返すのが気持ちよく、ページをめくっているだけで勉強した気分になれます。けれど、すでに答えがすべて書かれたページを読むのは、生成でも検索でもなく、ただの再読です。前述のとおり、読めてしまう作業からは負荷がかからず、記憶はあまり鍛えられません。せっかく時間をかけて作ったノートが、ここで「眺める用」になってしまうのは、もったいない話です。
ノートを活かすコツは、完成品をつくる時間と眺める時間を減らし、「思い出して埋める」時間を増やすことです。要点を隠して自分で言ってみる、キーワードだけ見て中身を説明してみる、答えの部分を手で隠してから確認する。たったこれだけで、同じノートが「眺める資料」から「思い出すための道具」に変わります。大事なのは、きれいさではなく、自分の頭を働かせる仕掛けがあるかどうかなのです。
「写す」を「思い出して埋める」に変える具体的なやり方
では、実際にどう取り入れればいいのでしょうか。難しいテクニックは要りません。意識するのは、次の4つだけです。
- 1まとめは「美しさ」より「あとで自分を試せるか」を基準にする。完璧なノートより、隠して思い出せる作りに。
- 2答えの部分は最初から隠す。赤シートで消える色で書く、付箋でふさぐなど、自分に空欄を出す仕掛けを入れる。
- 3見返すときは読まずに、まず自分で埋める・言ってみる。確認はそのあと。
- 4一度埋めた箇所も、忘れかけた頃にもう一度。時間をあけて埋め直すと、さらに残りやすくなる。
4つめの「時間をあけて埋め直す」は、生成効果と相性のよい工夫です。間隔をあけると人は内容を忘れかけますが、その忘れかけた状態でもう一度自分で答えを作ると、思い出す負荷が高まり、記憶がいっそう強くなります。完璧に覚えているうちに繰り返すより、少し怪しくなった頃に取り組むほうがおいしい、というわけです。
もうひとつのコツは、ノート作りに完璧を求めすぎないこと。きれいに仕上げようとすると、忙しい日はノートを開くこと自体が億劫になります。それより、要点を隠して埋める小さな練習を、通勤・昼休み・寝る前といったスキマに差し込むほうが、結果的に頭を使う回数が増え、生成効果が自然に働きます。
スキマ資格でどう実践するか
ここまでの話を、毎日の勉強に落とし込んでみましょう。とはいえ、穴埋め式のノートを自分でゼロから作るのは、なかなか手間がかかります。「どこを空欄にするか」を考えるだけでも時間を取られますし、自分で作った穴埋めは答えを覚えてしまっていて、生成の負荷がかかりにくいという問題もあります。
そこで使えるのが、スキマ資格のまとめノートです。各資格の要点があらかじめ穴埋め形式になっているため、読む前に自分で答えを埋め、その場ですぐ確認できます。つまり、インプットのページそのものが「生成」と「プレテスト」を兼ねた設計になっているのです。自分で空欄を作る手間も、答えを先に覚えてしまう心配もありません。進め方はシンプルです。
- 1各資格の「まとめノート」を開く
- 2わからなくても、まず自分で穴埋めに答える(生成)
- 3その場で答えを確認し、解説を読む
- 4章を終えたら、過去問・予想問題へ進む
「写して満足」だった学習が、「思い出して埋める」学習に変わります。きれいなノートを作る時間がなくても大丈夫。むしろ、できあいの穴埋めを自分で埋めていくほうが、頭は働きます。まずは1章から、無料でお試しください。スキマ資格は、生成効果・検索練習・プレテスト効果・分散学習など、研究で効果が確認されている学習法を土台に設計しています。まとめノートも、その考え方を形にしたものです。
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よくある質問
Q.ノートまとめは時間の無駄なのですか?
A.無駄ではありませんが、写すだけで終わると効果は薄くなりがちです。大事なのは作ること自体より、作ったノートで自分を試せるかどうか。要点を隠して思い出す仕掛けがあれば、まとめは強力な暗記ツールになります。
Q.きれいにまとめると、なぜか覚えられないのはなぜ?
A.色分けやレイアウトに頭が向いている間は、中身を覚える作業に頭が使われていないからです。手は動いていても、肝心の知識を自分で引き出す負荷がかかっていないと、記憶には残りにくくなります。
Q.穴埋めがスラスラ埋まらないと意味がないですか?
A.逆です。「あれ、何だっけ」と少し詰まるくらいが、記憶にはちょうどよい負荷です。埋まらなかった箇所はそのまま苦手の目印になります。すぐ確認して、忘れかけた頃にもう一度埋め直してみてください。
Q.自分で穴埋めノートを作るのと、できあいの穴埋めはどちらがいいですか?
A.どちらでも生成効果は得られますが、自分で作ると答えを先に覚えてしまい負荷が下がりがちです。手間や「答えを知ってしまう」問題を避けたいなら、あらかじめ穴埋めになったまとめノートを使うほうが手軽で続けやすいです。
参考文献
- Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604.
- Richland, L. E., Kornell, N., & Kao, L. S. (2009). The pretesting effect: Do unsuccessful retrieval attempts enhance learning? Journal of Experimental Psychology: Applied, 15(3), 243–257.